大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1777号 判決

しかしながら、(一)前掲乙第三号証によれば、控訴人は当時有限会社文賢堂の取締役として登記されていたことが認められること、(二)、前段認定の、控訴人が控訴人の印顆並びに本件建物の登記済証を清水賢二郎に貸与するに先立ち、清水賢二郎から金融を申し込まれたり、また同人から被控訴会社が同人に売掛代金の支払を請求し、これを支払わなければ送品を停止すると言つていることを告げられていた事実、(三)、原審における原告(控訴人)尋問の結果中、控訴人は昭和三十年五月二十日前後清水賢二郎から五万円の融通を申し込まれ、拒絶したところ、重ねて同人から金を借りられるあてがついたから印顆を貸してくれと言われ、保証人になつてくれというのだと思い印顆を貸したところ、暫くして権利証を貸してくれと申され、本件建物の権利証を貸した旨の供述、以上(一)ないし(三)を綜合すれば、控訴人は清水賢二郎に対し自己のいわゆる実印(右は前掲甲第四号証によつて証められる。)並びに本件建物の登記済証を貸与することによつて、清水賢二郎が他から金員を借り入れるにあたつて、控訴人が保証債務を負担することを承諾し、そのために必要な代理権を授与したものと認定するのが相当である。当審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用しない。当審証人舎川安喜の証言は右認定の妨げとならず、その他右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすれば、清水賢二郎が控訴人の代理人として前段認定の根抵当権設定契約を締結したことは、その与えられた代理権の範囲を超越したものというべきである。しかしながら、原審証人吉野孝之の証言によれば、同人は被控訴会社を代理して清水賢二郎と交渉するあたり、同人からさきには本件建物の登記済証を示され、本件建物に根抵当権を設定することを甲し出でられ、かつ控訴人は戦友で、清水の商売に何かと力になつていてくれる人だと説明され、さらにその後右登記済証の外、控訴人の印鑑証明書並びにこれと同一の印影を顕出した控訴人名義の委任状並びに根抵当権設定契約書を交付されたので、清水が本件根抵当権設定につき代理権を有することにつき何の疑も抱かなかつたことが認められ、かつ前段認定の事実関係の下においては被控訴会社代理人吉野孝之において清水賢二郎に右代理権ありと信じたことにつき正当の理由を有したものというに妨げないものというべきである。そしてこのように控訴人の印鑑証明書並びに抵当物件の登記済証まで交付された場合に、被控訴会社が控訴人に事前に問い合せをしなかつたことをもつて、取引上相当な注意をなすことを怠つたものということができないこともまた明らかである。

そうすれば、控訴人は清水賢二郎のなした右代理権超越行為につきその責に任じなければならない。

(松田 猪俣 沖野)

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